Salvation~世を治め民を救う~

読書感想文を主に書いています。政治・経済やメンタルなど健康に関するもの、小説などを取り上げることが多いです。

『ルポ虐待ー大阪二児置き去り死事件』を読んで感じたこと

本日は読書感想文。

 

フリーのルポライターである杉山春さんが書いた『ルポ虐待ー大阪二児置き去り死事件』を読みました。

 

 

ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

  • 作者:春, 杉山
  • 発売日: 2013/09/04
  • メディア: 単行本
 

 

 

タイトルからしてなかなかヘビーな内容が予想されますが、予想を上回るくらいヘビーな内容が書かれていました…。

 

ただ子育てや虐待、シングルマザーといった問題について考えるきっかけとしてはとてもいい一冊だったと思います。

 

ルポとは何か

まずはじめにルポとは何かについて共有しておきます。

 

  1. 取材記者、ジャーナリスト等が、自ら現地に赴いて取材した内容を放送新聞雑誌などの各種メディアニュースとして報告すること。略してルポともいう。現地報告。(ルポルタージュ - Wikipedia)

 

ルポルタージュというのはフランス語から来ているようです。実際に事件の関係者に話を聞いた内容がこの本にはありありと書かれています。そこに筆者の問題意識や目線が追加されている感じ。

 

大阪二児置き去り死事件

今から10年ほど前の事件ということで私はこの事件を知りませんでした。事件の概要としては、

 

2010年7月30日、「部屋から異臭がする」との通報で駆け付けた警察が2児の遺体を発見。死後1ヶ月ほど経っていた。なお遺体が発見されるまで「子供の泣き声がする」と虐待を疑う通報が児童相談所に何度かあったが発覚しなかった[1]。同日に風俗店に勤務していた2児の母親(当時23歳)を死体遺棄容疑で逮捕し、後に殺人容疑で再逮捕した[2]

 

二人の子ども(3歳と1歳9か月)が家に閉じ込められ、食事を与えられず、餓死してしまったという事件です。そしてその間に母親は遊びまわり、逮捕された前日も男性とホテルで過ごしていたとのことでした。

 

これだけを見れば育児放棄により幼い命を奪った最低の母親」が浮かび上がりますが、彼女の育った環境や行動をみてみると、母親だけが非難されるべきなのかという疑問がわいてきます。

 

愛情を注がれなかった子供時代

2児の母親だった芽衣さん(仮名)は解離性障害の疑いがもたれていました。その原因としては親の離婚と父親の教育に原因が見られています。

 

母親が不倫をしそれが父親にばれて芽衣さんと母親は家を出ることになります。しかし、芽衣さんの母親は精神的に不安定なところがあったそうです。

 

半年たって芽衣さんが「死んだ魚のような目」しており、食事や風呂などがまともに出来ていないことに気づいた父親は芽衣さんを引き取ることになりました。芽衣さんはこの時の記憶が曖昧だそうで、育児放棄されていたという事実をあえて記憶から無くしている可能性があるそうです。このときから芽衣さんの解離によって困難から逃避するようになっていたそうです。

 

小学生ながら3人姉妹の長女であった芽衣さんは二人の面倒を見る必要もありました。父親は教師をしていたそうですが、ラグビー部の指導に熱心だったそうです。芽衣さんはまともな愛情を注がれずに育ったことが推察されています。

 

中学生のころには家出を繰り返し、非行に走ることもあったそうです。また求められるがままに性的な関係を求めるようになっていきました。援助交際などもあったそうです。

 

芽衣さんは男子に求められると、すぐに体の関係になった。時には、食費等の家出の出費を性の相手から得ることもあった。援交のような体験も重ねている。(p.128)

 

親からの愛情を十分に受けることが出来なかったことを性行為によって穴埋めするようになります。

 

さらに過酷な体験として集団レイプもあったそうです。しかし、芽衣さんはそのことの記憶についてあいまいだそうです。これは芽衣さんなりの困難との向き合い方だと臨床心理士の西澤さんはおっしゃいます。

 

西澤さんによれば、これもまた、芽衣さんのメタ認知だという。繰り返すが、命に関わる程の重大な出来事を覚えていないのは、それが芽衣さんのトラウマに対する処理方法だからだ。幼児期に身につけた、困難からの逃げ方だった。(p.129)

 

芽衣さんの育った環境を調べてみると、芽衣さん一人に問題があったとは思えません。

 

責任を押し付ける家族

その後芽衣さんは結婚することになります。そして二人の子供にも恵まれます。最初は順調に進んでいた生活でしたが、芽衣さんの浮気が原因で離婚することとなってしまいます。西澤さんはそこにも芽衣さんの解離の影響が見られると話しています。

 

芽衣さんの場合、状況が良くても長続きしない。結婚当初、そこそこ良い状況だったのに自分から壊してしまう。それが彼女の特徴なのだと思います。良い状態であっても耐えられず、悪い芽衣さんが出て来て、浮気をしたり、子どもを置いて家出をしたりする。彼女の深い病理として、良い芽衣さんと悪い芽衣さんがいて、一定の状態が長続きしない。交替して出てくるのだと思う。(p.173)

 

そして離婚の話し合いとなるのですが、芽衣さんの父親と芽衣さんの夫の両親主導で話が進められてしまい、芽衣さんは子どもを育てることが難しいと思いつつも、子どもを引き取ることになってしまいます

 

さらに養育費ついても支払われず、その後元夫やその両親からの連絡も数えるほどだったと言います。

 

おそらく元夫の側としては浮気をされた事実がある以上、芽衣さんが責任を取るべきであるという考えがあったのでしょう。それにしても子どもには全く罪はないわけですから、子どもをどうするか、ちゃんと育っているかは興味を持つべきではなかったのかと思います。

 

行政サービスの強化を

芽衣さんは大阪に移る前は名古屋に住んでいました。そしてその時にも児童相談所に何度か電話をしたりしていました。しかし、芽衣さんとの関係を築くことはできませんでした。そうした記録から名古屋市児童相談所では、対策の強化を掲げています。しかしそれに対して職員は

 

「でもそれは、時間的にも体制的にも難しい。予算が充実しないと。私たちは通常業務で精一杯なんです。」(p.226)

 

 これは緊縮財政によって地方自治体に対する交付金が減少していることが原因としてあげられると思います。予算拡充によって体制が強化され、救われる命があるのですから、政府はこれを重くとらえるべきではないでしょうか。

 

 

デフレ放置が貧困層を増やした

さらに興味深かったのが芽衣さんが名古屋に住んでいた時に働いていたキャバクラの店長の発言です。

 

店長によれば、2000年代半ばごろから、19~20歳で子連れで面接にくる女性が増えたという。2008年のリーマンショック後には、面接を受ける女性の半分が子連れになった。(p.220)

 

この原因について特にリーマンショック後にシングルマザーが増えた要因としては、

 

<景気悪化>→<男性が(女性も)解雇される>→<経済的に困窮><家庭環境が悪くなる(DV等)>→<離婚しなんとか生計を建てようと夜職に就く女性が増える>

 

という理由かなと思います。

 

女性が働けない社会はクソですが、女性が働かざるを得ない社会はもっとクソです。さらにいうならシングルマザーが夜職で働かざるを得ない社会もクソなのではないでしょうか。

 

これは、政府が緊縮財政を続けて経済を悪化させ続けたことや企業の利益最大化のために非正規雇用を増やし続けたことも原因となっていると思います。

 

心の問題は目に見えない

 芽衣さんはおそらく解離性障害を抱えていたとされます。不可解な行動も芽衣さんの生育環境と解離性障害であったと見れば合点がいきます。

 

こうした心の問題というのは目に見えないというのが非常に厄介です。骨折や流血など目に見える傷があれば、周りも気遣うことが出来ます。しかし、本人ですら自分が病を抱えていることに気づけないことが多いのが心の問題です。毎年うつ病になるまでボロボロになるまで働く人がいるのも、目に見えないというのが大きな原因と思います。

 

芽衣さんは調子の良いときは責任感が強く、子育てにも熱心だったそうです。しかし、一度崩れてしまうと責任感の強さが、かえってうまく子育て出来ない自分を苦しめるようになります。

 

そのため逃避行動のように他の男を求めて育児を放棄するようになってしまったそうです。芽衣さんは長女と自分を重ねるところがあり、長女が苦しんでいる姿をまるで自分のことのようにとらえてしまい、受け入れることが出来なかったのではないかともいわれています。

 

まとめ

もし児童相談所との関係を築くことが出来ていたら、もし元夫の家庭や実の父親母親が育児に協力的であれば、近所の住人が早い段階で異変に気付くことが出来ていたら、このような悲しい事件は起きなかったのかもしれません。

 

芽衣さんは加害者でもあり、誰にも自分という存在を受け入れてもらうことのできなかったあるいみ被害者なのかなと思いました。

 

今後このような事件が起きた時に私たちがすべきことは加害者を糾弾し、問題を個人のものとしてしまうのではなく、「なぜこのような事件が起きたのか」「今後このような事件が起きないようにするにはどうしたらいいのか」を考え、社会問題としてとらえていくことではないでしょうか。

 

二度とこのような事件が起きないことを祈ります。

 

 

ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

  • 作者:春, 杉山
  • 発売日: 2013/09/04
  • メディア: 単行本